「さくら」の季節に想うこと

桜の季節ですね。コロナでお花見も自粛しなければならない今年の春。歩いていると風に桜の花びらが舞っていて、荒みがちな心が少し和らぎました。

 

桜をみて、思い出した人がいます。

 

きっかけは少し遡りますが、去年の冬に放送されていた「同期のサクラ」というドラマです。

日テレ系で水曜10時に放送されていたもので、

主人公は建築会社の新入社員のサクラ。曲がったことを見逃さず、疑問に思ったことはなんでも口に出して解消しないと気が済まない、そんな真っ直ぐすぎる性格です。その性格ゆえに会社や社会からは浮いてしまいがちなサクラと、彼女を取り巻く同期たちのお話です。

 

その主題歌が、森山直太朗さんの「さくら(二〇一九)」でした。2003年の「さくら(独唱)」を新たにアレンジして、歌も再録した、今の森山直太朗さんが歌う「さくら」です。

 

久しぶりに「さくら」を聴いて、昔の記憶が蘇り、懐かしいような切ないような気持ちになりました。昔の記憶、というのは私が中学3年の時のもので、ピアノの先生との思い出です。

 

年少〜高3までピアノを習っていました。

その間に1度先生が変わっています。年少〜中3まで習っていたのが、ゆきこ先生。

穏やかで優しいけれど、芯が通ってシャンとした先生でした。

 

ピアノの練習だけでなく、幼い私のお喋りにも付き合ってくれました。反抗期に入ると、レッスン中そっぽを向いてしまったこともあったけれど、怒らずに根気強く接してくれました。

 

練習は嫌いだけれどピアノを弾くことは好きでした。発表会で私の演奏を聴いてくれた人に「あなたの演奏には色がある」と褒めてもらい、お世辞を知らない当時の私は調子に乗ってルンルンでした(笑)

 

中学生になる頃には教室の中でも年上になり、「自分がこの教室の生徒の中で一番うまい!」などと勝手に思って練習に励んでいました。(その謎の自信はなんなんだ)

ピアノもゆきこ先生のことも大好きでした。

 

そんな時に、ゆきこ先生の旦那さんが倒れました。昔の記憶なので、何の病気かは分からないんですが…それがきっかけで、先生は教室を閉じることに決めた、と記憶しています。

 

ゆきこ先生の教室では毎年春に発表会を開催していました。高校入学直前の春休み。これがゆきこ先生の生徒としての最後の発表会でした。

 

発表会では生徒がそれぞれ個人の曲と、連弾の曲を披露します。連弾相手は同じ教室の生徒だったり、先生だったりとその年によって色々でしたが、その年は母と連弾することになりました。

 

連弾の曲として、先生がくださったのが森山直太朗さんの「さくら」でした。

 

当時の私はその歌を何となくメロディーは知ってる、ぐらいで。「春だからこの曲なのかな〜」ぐらいにしか思っていませんでした。

 

ただ、母には「先生への感謝の気持ちを込めて弾きなさい」と練習時から何度も言われていて、「まあ最後だし、そうだよな〜」と呑気に練習していました。

 

発表会当日。連弾に出ていく前先生に「先生への感謝の気持ちを込めて弾きます」と舞台袖で言いました。正直にいうと、これは母に事前に言えと言われていたセリフ。その気持ちに嘘はなかったけれど、中学3年の私にはどうにも恥ずかしかったです。

 

演奏は無事成功しました。

 

舞台袖に戻って、先生と握手しました。そんな握手なんて恥ずかしいよ…なんて当時の私は思ってたんですが、「ありがとう」と言った先生の目には涙が浮かんでいるように見えました。

 

先生と交わした最後の言葉が何だったかは覚えていません。ただ、恥ずかしさに負けて真っ直ぐ感謝を伝えられなかった、という後悔の念が残っています。当時の私は多分照れ臭くて普通に挨拶をして、別れてしまったのだと思います。

 

それから何年もたった今。同期のサクラを観て、久しぶりに「さくら」を聴いて涙が出ました。その歌詞に、

 

話らはきっと待ってる 君とまた会える日々を

さくら並木の道の上で 手を振り叫ぶよ

 

さらば友よ 旅立ちの刻 変わらないその想いを今

 

号泣しました。幼稚園の時から成長を見守り、ピアノを通して音楽の楽しさを教えてくれた先生。

先生はどんな想いでこの曲を私にくれたのだろう。

私の想像に過ぎないけれど、この曲に込められていたかもしれない先生の想いを考えると、涙が止まらなかった。その想いを感じ取れなかった、想像すらできていなかった当時の自分、バカだなあ。

 

先生のピアノ教室を辞めた後、私は別の先生に習い始めました。高校生にもなったし、ゆきこ先生に教えてもらえないし、ピアノ辞めたいなあと思ったことも正直ありました。それでも辞めずに細々とでも高校3年まで続けることができたのは、ゆきこ先生が「ピアノ、続けてね」と先生が私に言ってくれていたから。

先生のこの言葉と、先生とのピアノの記憶のおかげで、私は今もピアノが大好きです。

 

春は出会いと別れの季節。

あの中3の春に感謝の気持ちをきちんと真っ直ぐ伝えられなかったという後悔が、私には今も残っています。

 

今年はコロナのせいで卒業式もままならない状況にありましたが…

どうか、大切な人とお別れする人たちが、照れ臭くても恥ずかしくても、きちんと感謝の気持ちを伝えられますように…と風に舞う桜をみながら考えていました。

 

律(@prits_rits)

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